「…このバカ!」
 酩酊して同じことを言い続け、ママさんの話を聞いているふりをしてその言葉が耳を素通りするだけであったらしい小生をなじるそのお人は、山形市「ボルドー」のマスター、高梨氏である。バーで、しかも、ワインは置いていないというのに、親会社の指導で、なぜかそんな名前にさせられたという。
 入り口からは想像もつかぬ、シックで、柔らかい照明の、かつて学生の頃バイト先の上司に連れていってもらったゲイバーに似ているその店内は、女性らしさを感じる。なんかヘンダナーというか、妙な居心地のよさを感じつついろいろお話をしていると、マスターが「この内装、何をイメージしていると思う?」と聞く。小生はまともな答えができるはずもなく、同行者達(今回は総勢4名で行ったのだ)がいろいろ答えるが的を射るものもなく、答えは女性の胎内だそうで、天井にある細長い金色のオブジェはGスポットだそうで、カウンターの形は男根なのであった。なんというか、けっこうなお年なのに好きねーアンタという感じであるが口にも出せず、小生はカクテル2杯で酔いつぶれたのであった…。

 今回の旅は、長崎の旅に味を占めた当時のメンバーで創立した『居酒屋放浪同好会』の初めての活動で、「飲むためだけに山形に行く」という、崇高な目的のもと、挙行されたのである。
 なぜ第1回が山形になったのかというと、Kくんが「いい店があるみたいですよ~」と言ったからなのだ。つうか、愛読書、『ニッポン居酒屋放浪記(太田和彦・著)』に影響を受けたからなのだが。
 もうすぐ雪が降りそうなので、雪道を走れないビートルに乗っているK君のたっての願い(というほどでもないが)で、4人詰まって西川家を出発する。朝方に西川家お父さんゴルゴノボティーンが「オレも行きたい」と突然言いだしたそうで、結局ビートルの乗車人数制限を楯に断ったそうだが、心暖かく見送ってくれた。
iza-yama6.jpg
 山形での昼食といえば、そばか冷やしラーメンかステーキである(勝手に決めた)。我々はそば街道へ向かうことにした。
 そば街道は、村山市を中心に蕎麦屋が点在するのをまとめたようなものであるのだが、なんというか山形のそばにはそれほど興味はないのだが、せっかくだからという観光客根性丸出しで選んだ、というかたどり着いたのがここ、「三郎兵衛そば」である。中にいるじいちゃんが三郎兵衛かしらん。そば打ち場があり、おじさんが蕎麦を打っている。やたらに大量に打っている。しかしながら行列が長く、近隣の軒下を探訪するとあるはあるは、どこの家にも干し大根と干し柿があるではないか。ない家の方がおかしい。それどころか、干しねぎまである。なぜ長ネギを干すのか定かでないが、干しているのではなく、保管しているだけかもしんない。
iza-yama1.jpg
 パインサイダーを飲みつつそばをすすり(女子は)、突き出しがけっこうおいしくて、しかし、わらびの本数が小生は他者より少なく、ちょっとうらやましかったのだが年長者として「ずるいー」と言うわけにもいかず、それで我慢したのだった。大人だな。
 こんな、蕎麦屋のことばかり書いている場合ではない。飲み屋のことだ。

 山形市へ着き、駅へ行って泊まる場所を手配する。この連休、どこも混み混みだという情報を多方面から得ていたのだが、何とかなるだろうと思っていたら、やたら何とかなった。駅前のおんぼろだけど、なんだか居心地のよいホテルを確保。チェックイン後さっそくK君と居酒屋の下見に行く。よし、やっと本題に入れる。
 とりあえず駅前のプチ飲屋街を探索するも収穫がなく、ちょっと離れた○○町に向かう。途中何もなく、かなり焦燥感を覚え、K君に愚痴を洩らす。しかし、山形もさすがは米の国。ちゃんとあるじゃないか飲屋街。右往左往しているうちに大体めぼしい店が何軒か見つかり、ちょうど、買い物をしていた女子達から連絡が入り、呼び寄せることになった。
 さて。1軒目に入った店について我々は多くを語らない。期待をしすぎるということほど、その結果とのギャップから来るショックを増幅するものはない。店に対してでもあるし、それを飲むために来たとでも言うべき「東北泉」と「十四代」は、我々(といっても、小生とKくん)の口にはあっさりたおやかすぎたのだ。いつもどっしりとした日本酒ばかりだから、なんというか、味が薄いのだ。これってあんまりいい酒飲んでいない証拠かなあ。K君の意見もちゃんと聞いておこう。
 そんなわけで、その店を早々に出た。店内で誰かが言った。「なんだか葬式みたいだねえ」K嬢は、納豆の天ぷらと格闘していた。そのがんばりに拍手。
iza-yama2.jpg
 名誉を回復(誰の名誉だ)すべく向かった2軒目。これは店名を出せる。「こまや」という、写真を見てもらえれば分かるとおり、もろ通好みの外見の民芸風居酒屋だ。ちなみに、小生の母の旧姓も「こまや」だ。変わった名字だ。アイヌの血を引いているらしいのだ。ちょっと嬉しい。
 店にはいるとじいちゃんとばあちゃんがいて、ばあちゃんがご飯を食べようとしていたのだが、我々を見てさっと片づけ始めた。焼き魚を食べようとしていた。「なんですかその魚」と、かなりどうでもいい質問をする小生は、前の店のショックから抜けきっておらず、誰か人の情けにすがりつきたかったのだよ。
 しかしばあちゃんはすげなく「これはお客さんに出すものではない」と言い放ち、カウンターに入っていった。さて、店主はというと、ちょっと難しそうな顔をしたじいちゃん。必要なこと以外いっさいしゃべらない。
iza-yama3.jpg
 この店では、樽酒の熱燗を飲む。樽の色が移ってうす茶色で、杉の香りがぷんぷんとして、なんだか初めての体験で、悪酔いしそうな予感がしつつ、杯を重ねる。旨いんだか旨くないんだか分からない。
 ここではコロッケが旨かった。ジャガイモものは居酒屋の定番であります。ポテトサラダがあると、もうそれだけで飲めますな。肉じゃがも秀逸。でかいジャガイモがごろりと入っていて、味も浸みてて、文字通りしみじみ旨い。
 はじめは我々だけだったのが、次第に店が一杯になってきて、K君は隣り合わせた葬式帰りのおじさん達と意気投合している。K君「我々は人生の旅人」ということについて語っていたとのこと。小生はといえば、店の主と話そうにもそんな雰囲気が生まれない。熱燗がどんどん進む。ここでは酒は冷やで飲まず。
 さて行こうかという段になって、おじさんがこっちを見て、「さ!さ!」と言う。そして、K嬢を見て「ちょ!ちょ!」と言っている旅人だから、西遊記に結びつけたらしい。K君が三蔵法師で他3名が家来か?「ちょ」のつく登場人物に目されたK嬢は憤慨しているが、他のお客さん達はその様子を見て笑っている。さらにK嬢は憤慨。まあいいじゃないか。
 さあ、次の店は縄のれんだ!「こまや」の2階にある「あし野」へ入る。が、その前になんとか横町という昔の飲屋街を散策して、寂しさをかみしめる。
iza-yama4.jpg
 そういうわけで3軒目に入った「あし野」さんではたして我々(というか小生)は今回最高の酒と肴に出会うのだ。
 階段を上がっていくと、右手にドアがあり入っていくと誰もおらぬ。いや、店主が一人カウンターの中で座っている。とりあえず(日本人の悪い習慣だ。時と場合によってビール以外のものから始める必要もある)我々は生ビールを頼み、突き出しに箸を付けた。
 「おっ!?」
 喜びとも驚きともとれる声を上げた。店主に聞いてみると、いぶした鰹をほぐして、醤油と酒でさっと煮たそうだ。2回おかわりする。
 これにぴったり合ったのが、此処の自慢らしい泡盛。古酒が勢揃い。よくワカランので、名前で決めてどんどん飲んでいく。泡盛、最高だ。癖がないのが物足りないときもあるのだが、日本酒とは違う透明感のある香りについつい引き込まれてしまう。中でもうまかったのが…、何かというと…、思い出せぬ。次回からメモ帳もポッケに入れていこう。
 この間、K嬢は誰もおらぬお座敷でグーグー寝ていた。どこでも寝られるって素晴らしい。彼女は地元の飲み仲間でよく行く「いこい」の押し入れでも寝ようとした。きみはドラえもんか。
iza-yama5.jpg
 さて、問題の「ボルドー」にやって来た我々は、いきなりマスターの魔法を見せられることになる。小生はしゃっくりが止まらなかった。あし野を出てからずっとだ。それを見たマスター、注文を聞くよりも前に砂糖を一杯スプーンにのせて小生の前にやってきた。そして、前口上を述べる。「やあやあわれこそは…」ではなくて、
「さあみなさん見ててくださいよ、スプーン一杯の砂糖であら不思議、しゃっくりがピタッと止まる、あなた、これを口に入れたら、ぐーっとコップ一杯の水を息もつかずに飲み込んでね!」
いつの間にかママさんが水を持って現れている。(この辺からけっこう酩酊しているから、半分くらい想像)
言われるがままに水を飲み干すとしゃっくりは止まっていた。
ボルドー万歳!
あとは、前述の通り。

帰りにコンビニで紅茶アイスを買って食べるも途中で飽きちゃったことと、ラーメン屋のカウンターに座ってラーメンを受け取るシーンしか覚えておらぬ。トホホ。

 翌日の我々は、爽快に起き出し(特にYちゃん。他3名が寝ぼけていた頃、一人出掛ける準備が完全に整っていた朝8時)、ファミレスで素晴らしく旨いドリンクとスープ飲み放題付きの朝食を摂り、元県庁舎である「文翔館(漢字合ってるかな)」を見学して中でトンボ玉を買いそうになり、最後にステーキ(もしくはしゃぶしゃぶ)を食べて帰途についたんだったのだ。

 帰ってきてビックリ。「ヒマだったから車洗っておいた」と、ゴルゴノボティーンが洗車をしてくれていたのだ、小生の車とYちゃんの車を!ありがとうござりまする。しかし、翌日、工事現場を通過の際、一瞬にして泥だらけになったわが愛車なのでありました。

 次回予告。「大館居酒屋放浪記(特に比内や)」。多分1月に行く。

コメント

コメントの投稿

  • URL
  • コメント
  • パスワード
  • 秘密
  • 管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURL:http://nokishita08.blog50.fc2.com/tb.php/20-3a5cb303